13年目のやさしい願い
スマホを授業中に机の上に置いておくなんて、普通では許可されるはずがない。
つまり、緊急時へのリスク対策が許されるくらい、陽菜ちゃんの持病の状態は悪いってことで……。
「ハルは遠慮して、普段は電話なんてかけてこない。けど、あの日に限ってオレの電話は鳴った。
授業中だけど慌てて出て、……でも何の声もしなかった。
そのまま、オレは教室を飛び出して、全力疾走で保健室に駆けつけた」
広瀬先輩はまたコーヒーを飲む。
オレたちは誰もが、飲み物に手をつけられるような心境ではなくて、身じろぎひとつせずに広瀬先輩の話を聞いていた。
「後は、ご存知の通りだ。
確かに過保護だろうね。自覚してるよ」
広瀬先輩はストローでコーヒーをかき混ぜた。
カランカランと氷がぶつかって音を立てた。
「それでも、ハルはオレにとって何より大切な女の子で、オレはハルを守りたいと思っている。
もう10年以上ずっと大好きで、誰より大切で、去年、ようやく思いが通じて恋人同士になれたんだ。
心臓にはストレスも大敵だから、避けられるものなら避けて通りたい。
それくらい、……道端の小石を、躓かないようにどかして歩くくらいの権利、オレは持っていると思ってる」
さりげなく道端の小石をにされた篠塚先輩。
オレもだろうか?
広瀬先輩の話は終わったようで、静かにオレたちの言葉を待った。