13年目のやさしい願い
「オレに謝る必要はないさ。
オレはただ、ハルを心配をしただけの人間で、実際の被害者はハルなんだから」
広瀬先輩はそう言ったけど、そうじゃない、陽菜ちゃんにはもちろんだけど、オレは広瀬先輩に謝らなきゃって思ったんだ。
「でも……じゃあ、どうすれば」
兄貴はオレの心中など知らず、陽菜ちゃんへの謝罪方法を模索する。
「別に何もしなくていいよ」
そう、兄貴に言うと、広瀬先輩は篠塚先輩に視線を移した。
「ただ、あんたには、二度とハルに近づいて欲しくない」
広瀬先輩は、感情のこもらない声で、篠塚先輩にそう言った。
それからコーヒーを飲み干し、スッと席を立った。
「じゃあ」
軽く手を上げ、広瀬先輩は立ち去った。
篠塚先輩の顔をそっとうかがい見ると、唇を噛みしめて、俯いていた。
何を考えているのかは分からない。
反省しているのかも分からない。
ただ、この店に入った時のような居丈高な態度も、不遜な態度もすっかり消え失せていた。