13年目のやさしい願い
「………ナ…」
「ん? どうした?」
ハルの声に驚いて、伏せていた顔を上げるけどハルは眠ったままだった。
ただ、何の夢を見ているのか、目を閉じたまま幸せそうに、にこぉっと笑った。
「ハール」
嬉しくて、ささやくように小さな声で思わず、ハルを呼んでみる。
ハルが起きる気配はやはりなかった。
オレは少しだけ大胆になり、そっとハルの手を取り頰にあてた。
細っそりとした指先は、相変わらず冷たい。
しばらく両手で包み込んだ後、そっとハルの手を戻すと、今度は柔らかく広がる髪に手を触れた。
ゆるい曲線を描く髪の毛に覆われるのは、整った白い顔。
驚くほどに長いまつげの下には、こぼれ落ちそうに大きな瞳が隠されている。
小ぶりな赤い唇からあふれ出すのは、いつだって優しくて暖かい言葉ばかり。
ハルの寝顔を見つめていると、心の中が愛しさでいっぱいになる。
「ハル、大好きだよ」
声に出しすと更に愛しさが溢れ出して、オレの身体のすべてがハルへの想いで満たされるような気がした。
「ずっと、……ずっと一緒にいようね」
思わずハルの耳元で囁いてみると、
夢の中でオレの声が届いたのか、ハルがまたふっと頰を緩めた。
窓から入る風が、かすかに頬をなでていく。
午後の日差しが、レースのカーテン越しに部屋にゆるやかな陰影を作る。
ようやく、
今度こそ、ようやく落ち着いた日々が戻ってくる気がした。
オレはハルが目覚めるまでの小一時間、幸福感に満たされ、飽きることなくハルの寝顔を眺め続けた。
(完)