13年目のやさしい願い
驚きに力が抜け、右手で持っていた鞄がトスンと音を立てて、地面に落ちた。
呆然と立ち尽くす時間に終止符を打とうとしたかのように、
強い風が吹き抜け、桜の花が舞い散った。
合わせてわたしの長い髪も舞い上がり、慌てて空いた右手で押さえる。
わたしの左手は変わらず、一ヶ谷くんが両手で包み込まれていた。
「……あ、あのね」
言わなきゃ。
彼氏がいるってこと。
それから、わたし、2年だよってこと。
後、手を離してって。
それから……。
「あ! ごめんね、唐突で! でも考えておいて」
一ヶ谷くんは無邪気に笑った。
返事は今度って……。
違うよ。
今度じゃなくて、今……
って思ったのに、
「わ。せっかく早く来たのに、遅くなっちゃうね。行こう!」
行き先も分からないのに、一ヶ谷くんはわたしの手を引き、桜の向こう、校舎の方へと歩き出した。
え?
ここは、わたしが案内するところじゃ……と思っているのに、何も言う暇を与えられず、
わたしの上履きは、そこの裏口にあるんだけど……と思ったけど、言う間もなく、
一ヶ谷くんはわたしの鞄をサッと拾って、そのまま元気よく歩き出した。