13年目のやさしい願い
カナはわたしの頬にそっと手を触れた。
そうして、ぽろりと言った。
「……なんで、先に行っちゃったの?」
カナの言葉に顔がゆがむ。
……今?
今、それを聞くの?
今、話さなきゃダメ?
もう教室に戻る時間なのに。
何より苦しくて、話す元気、ないよ。
わたしが答えるより前に、カナが自分で答えを出した。
「ごめん」
口が滑ったと、カナは言う。
「そんな話は後だよな。ハル、ホント、調子悪そうだし。……ごめんな。ゆっくり休んで。オレ、ひとまず教室に戻るから」
カナはわたしの手を取り、両手で包み込むようにして、わたしの手にそっとキスをした。
「後で、迎えにくるから」
「自分で……」
「そうだな。一人で、戻れるくらい、元気になれたら一番だよな」
わたしの頬をそっとなでるカナの手。
暖かくて、ホッとした。
それから、カナは「また後で」と小さく手を振り、カーテンの向こうに消えた。
「先生、ハル、目覚ました。けど、かなり気分悪そうだから、ちょくちょく覗いてやって」
「了解。ご苦労さま」
そんな声が聞こえてきた。