13年目のやさしい願い


「あのね。どれだけ来てもらっても、わたし、一ヶ谷くんとはつきあえない」


「もう、つきあっている人がいるから」


「……別れないよ」





昨日、ハルが一ヶ谷に言った。

ハルが一ヶ谷相手に、しっかりと断りを入れたのが嬉しくて、オレはもうハルと仲直りしたような気持ちになる。

けど、別に何も変わっていない。



入学式の日からハルに笑顔がない。



ハルに笑っていて欲しいのに。

ハルを幸せにしたいのに。



とにかく、2人きりの時間を増やしたかった。



天気も良いし、気候も良い。

今日は迎えの車は頼まず、自転車に2人乗りで帰る予定だ。



ハルは自転車に乗れない。

だからか、初めて後ろに乗せた去年の秋、ハルはスゴく喜んでくれた。



「自転車って、お尻、痛いんだね」



なんて言いながらも、赤く上気した頬が、キラキラと輝く瞳が、本当に楽しそうで。

ハルの笑顔が眩しくて、オレは本当に幸せだった。



目の前に見える、スクランブルの交差点を越えたら、もう病院は目の前だ。

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