13年目のやさしい願い
衝突の衝撃はうまく受け流せた気がする。
きっと、長く格闘技をやってきたおかげだ。
だけど、まともに車にぶつかったオレの身体は宙を舞い、
とっさに頭をかばったにも関わらず、
オレは後頭部をアスファルトに強打した。
血相を変えてかけ寄る人たちの姿が、かすむ視界のすみに入ってきた。
先頭は隣に立っていたおじさんか。
こんな状況なのに、オレはやけに冷静で、
音はなく、スローモーションで動く世界は、まるで映画か何かのようで……。
ふと、脳裏にハルの顔が思い浮かんだ。
大好きな笑顔ではなくて、今にも泣き出しそうな……哀しげなハルの顔が。
ハル、ごめん。
……オレ、なんか、迎えに行けなさそう。
そのまま、オレの意識は暗転した。