13年目のやさしい願い


「今日の絵本、何!?」

「何だと思う?」



わたしの手提げ袋を覗き込むのは、点滴を付けて歩く男の子。

新しく見る顔もいる。

それでも、春休み中は検診日以外も来ていたから、大体知っている顔ぶれ。

新しい子も、わたしのこと、聞いていたのかな?

もじもじしながらも、笑いかけると笑顔を返してくれた。



ベッドから動けない子の周りに、自然と子どもたちが集まる。

わたしが、そちらの方に絵本を向けるのを知っているから。



今日は、ベッドから降りられない子は一人だ。

交通事故で足と肋骨を骨折して、まだ自由には動けない男の子。

この前に来たときよりは、ずいぶん顔が明るい。

よかったね。



「最初はね……」



と、大きな絵本を取り出すと、



「あ! 妖怪ひとつ目くんだ!」



と、この話を知っている子が声を上げた。

わたしはニッコリ微笑んで、スウッと息を吸ってから読み始める。



「むかーしむかし、ほんの少し昔、こーんな変わった妖怪がいました」

< 88 / 423 >

この作品をシェア

pagetop