きっと、これは
きっと、これは
-池内Side-
恋に落ちるまでは、早かった。
「池内、次の授業、教科書見せてくれよ」
一限目の授業が終わり、次の授業が始まるまでの十分の休憩時、隣に座っている武本は、そんな事を言って来た。
「……また忘れたの?」
「ああ。昨日ちゃーんと鞄に入れたのによ~。どこ行ったんだ」
武本は、机の中を覗き込んだり、鞄の中をごそごそと漁ってみたりと、忙しなく動いている。
「入れてないから今ないんでしょ。もう……次はちゃんと持って来てよね」
「ははは、悪りぃ悪りぃ」
へらっと笑って見せる武本。その謝罪の中に少しも悪びれた様子など微塵も含まれてはいなく、少しだけむっとした。
「もう……」
仕方無いなぁ……と言葉を続け、私は机の中から次に使う教科書を取り出し、それを広げると、隣の武本にも見える位置に置いた。
「サンキュ。このお礼は必ずするからよ!」
「……お礼?」
「そ。」
「お礼ってどんな?」
得意気に語る武本に、そのお礼とやらがどんなものかと期待して問う。何か貰えるのなら嬉しいし、それは物でなくても自分にプラスになるものなら何でも嬉しいから。
「……うーん、まだ考えてねぇや」
「何それ……」
自信満々に言っておいてこれだ。いつも考えなしに言葉を紡ぐものだから、結局こうなるのではと思っていた。私は呆れた表情で武本を見た。
「まっ、何かお礼はするから、楽しみに待ってろよ」
「期待せずに待ってる」
にかっと笑う武本につられて、私も笑った。
その時。
「おい、タケ。お前に用事があるってあの一年が……」
クラスメイトが武本に用件を伝える為に傍までやって来て、教室の後ろ側の扉を指差した。
自分に言われている訳ではないのに、思わず私もその方向を振り向く。
「何だ、笠井じゃねぇか」
扉の傍には、笠井と呼ばれる少年が立っていた。
つり目がちの大きな瞳に、サラッと前髪が掛かっていて、黒い無造作ヘアは彼によく似合っている。形のいい口唇はキュッと結ばれていて、彼の醸し出す雰囲気から、口数の少ないクールな少年に思えた。背は低めだけれど、かっこいいな、そう思った。
「おーい笠井、入って来いよ!」
武本は大きな声でそう叫んで、少年を呼んだ。自分があちらに行ってあげる気はないようだ。二年生の教室まで足を運ぶ事すら勇気が要るものなのに、教室に入るなんてよっぽど図太い神経でもしていないと無理だ。
「……ここでいいですよ」
小さく、それでもこちらに何とか聞こえる声で、少年は言った。
「武本、行ってあげなよ」
入り辛いのだろうと思い、私は武本にそう言った。武本は億劫そうに立ち上がり、
「何だよ」
そう言いながら笠井という少年の傍まで歩いて行った。
二人が話している様子は気になったけれど、私の席は窓際だったから声は聞こえないし、自分には関係のない話をじっと聞いているのもどうかと思ったので、視線を前に戻して、次の授業で使うノートを開いて、それを見ていた。
けれど、集中も出来なくて。
二人の話が気になるというよりも、彼が――笠井という少年が、何故か気になった。
時計を見ると、あと一分でチャイムが鳴る事に気付く。
授業もう始まるよ、そう言おうと二人がいる場所に顔を向けると、話を終え自分の教室に戻ろうとしている彼と目が合った。
つり目の大きな瞳が、まるで自分を見据えるかのようで、ドキっと胸が高鳴った。
顔が熱くなるのを感じて、すぐに視線を逸らしたが、やっぱりどうにも彼が気になって仕方なかった。
「池内、次の授業、教科書見せてくれよ」
一限目の授業が終わり、次の授業が始まるまでの十分の休憩時、隣に座っている武本は、そんな事を言って来た。
「……また忘れたの?」
「ああ。昨日ちゃーんと鞄に入れたのによ~。どこ行ったんだ」
武本は、机の中を覗き込んだり、鞄の中をごそごそと漁ってみたりと、忙しなく動いている。
「入れてないから今ないんでしょ。もう……次はちゃんと持って来てよね」
「ははは、悪りぃ悪りぃ」
へらっと笑って見せる武本。その謝罪の中に少しも悪びれた様子など微塵も含まれてはいなく、少しだけむっとした。
「もう……」
仕方無いなぁ……と言葉を続け、私は机の中から次に使う教科書を取り出し、それを広げると、隣の武本にも見える位置に置いた。
「サンキュ。このお礼は必ずするからよ!」
「……お礼?」
「そ。」
「お礼ってどんな?」
得意気に語る武本に、そのお礼とやらがどんなものかと期待して問う。何か貰えるのなら嬉しいし、それは物でなくても自分にプラスになるものなら何でも嬉しいから。
「……うーん、まだ考えてねぇや」
「何それ……」
自信満々に言っておいてこれだ。いつも考えなしに言葉を紡ぐものだから、結局こうなるのではと思っていた。私は呆れた表情で武本を見た。
「まっ、何かお礼はするから、楽しみに待ってろよ」
「期待せずに待ってる」
にかっと笑う武本につられて、私も笑った。
その時。
「おい、タケ。お前に用事があるってあの一年が……」
クラスメイトが武本に用件を伝える為に傍までやって来て、教室の後ろ側の扉を指差した。
自分に言われている訳ではないのに、思わず私もその方向を振り向く。
「何だ、笠井じゃねぇか」
扉の傍には、笠井と呼ばれる少年が立っていた。
つり目がちの大きな瞳に、サラッと前髪が掛かっていて、黒い無造作ヘアは彼によく似合っている。形のいい口唇はキュッと結ばれていて、彼の醸し出す雰囲気から、口数の少ないクールな少年に思えた。背は低めだけれど、かっこいいな、そう思った。
「おーい笠井、入って来いよ!」
武本は大きな声でそう叫んで、少年を呼んだ。自分があちらに行ってあげる気はないようだ。二年生の教室まで足を運ぶ事すら勇気が要るものなのに、教室に入るなんてよっぽど図太い神経でもしていないと無理だ。
「……ここでいいですよ」
小さく、それでもこちらに何とか聞こえる声で、少年は言った。
「武本、行ってあげなよ」
入り辛いのだろうと思い、私は武本にそう言った。武本は億劫そうに立ち上がり、
「何だよ」
そう言いながら笠井という少年の傍まで歩いて行った。
二人が話している様子は気になったけれど、私の席は窓際だったから声は聞こえないし、自分には関係のない話をじっと聞いているのもどうかと思ったので、視線を前に戻して、次の授業で使うノートを開いて、それを見ていた。
けれど、集中も出来なくて。
二人の話が気になるというよりも、彼が――笠井という少年が、何故か気になった。
時計を見ると、あと一分でチャイムが鳴る事に気付く。
授業もう始まるよ、そう言おうと二人がいる場所に顔を向けると、話を終え自分の教室に戻ろうとしている彼と目が合った。
つり目の大きな瞳が、まるで自分を見据えるかのようで、ドキっと胸が高鳴った。
顔が熱くなるのを感じて、すぐに視線を逸らしたが、やっぱりどうにも彼が気になって仕方なかった。
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