きっと、これは
-武本Side-
「よぉ、笠井」
俺が部室で着替えていると、こいつ――笠井が入って来た。
「遅かったな。今まで何やってたんだよ」
俺はジャージに着替え終わると、笠井にそう尋ねた。いつもならとっくに部活に参加している時間だ。なのにこいつは、時間に遅れて来てやがる。ま、人の事言えねーんだがな(苦笑)
「委員会の仕事があったんですよ。タケ先輩こそ何やってたんですか」
笠井は、俺の隣のロッカーに荷物をどさりと置くと、チャックを開けてジャージを取り出す。俺はそれを横目で見ると、しゃがみ込んで靴紐を結び直した。
「俺も委員会の仕事があったんだよ」
「ふーん」
自分から尋ねておきながら、隣のこいつは俺の話になどさして興味もなさそうに返事をした。
俺は靴紐をきゅっと結び終えると、立ち上がって、傍らに置いていたサッカーボールを持って、部室から出ようと歩き出した。
因みに俺はサッカー部に所属していて、これでも結構強い方なんだぜ。レギュラーでもあるし。
俺は得意気に数回リフティングした後、部室の扉を開けようとした。が、
「……先輩、」
「ん?」
未だのろのろと着替えている笠井に、呼び止められてしまった。
「……」
「何だよ、笠井」
呼び止めておいて言葉を続けようとしない笠井に、俺は続きを促すが、なかなか次の言葉を言おうとはしない。
俺は体ごと笠井に向き直った。
「おい、笠井?」
「……池内さん、」
「え?」
声が小さくて、笠井が何を言ったのか聞こえなくて聞き返すと、笠井はやっと俺の方を向いた。
「……池内さんって人が、タケ先輩のクラスにいますよね?」
「池内?」
出て来た言葉と名前に俺は拍子抜けしちまって、アホみたいな声を出してしまった。
この狭い個室に妙な緊張感が漂っていて、しかもこいつはなかなか言おうとせずにもったいぶるから、何を言い出すかと少しだけ身構えてしまったじゃねぇか。
「……池内って、俺と席が隣の、あの女子の事か?」
「……はい」
「池内がどうかしたのか? てかお前ら知り合いだったのか?」
「知り合いって訳じゃないんですけど……さっき廊下でその人とぶつかったんですよ」
笠井はそう言うと、また背を向けて着替え始めた。俺は「へー」と返したけど、笠井が何を言いたいのかが分からず、その場に立ち止まって続きを待つしか出来なかった。
幾秒かの沈黙が訪れ、俺は溜息をついた。
「先行ってるぜ」
痺れを切らしそう言った。それ以上何も言わない笠井を待っていると、部活が終わっちまう(いや、実際は終わんねーけどよ)。ただでさえ委員会で遅れたというのに、これ以上遅れたら監督に何て言われるか分からない。
俺は部室に笠井を一人置いて、扉を開けようとドアノブに手を掛けた。
「先輩」
呼ばれて振り向くと、着替え終えた笠井が、短パンのポケットに両手を突っ込んだ状態で立っていた。
そして、俺を見据えながら、ゆっくりと口を開く。
「俺、その人が――池内さんが、タケ先輩の彼女なんじゃないかって思ったんですよ」
「……は?」
「でも、違うみたいですね」
そう言って笠井は、いつもの生意気な笑みを浮かべた。
俺はと言うと、思い掛けない笠井の言葉に、口をぽかんと開けたマヌケな面をしていた。が、笠井が何を言いたいのかを、俺の少ない脳みそをフル回転させて、俺なりに分析してみたんだ。
マジにさ、こいつはいつも生意気な事を言う奴なんだよ。けどよ、今みたいに躊躇するような物言い、滅多になくて。
いきなり池内の名前を出して来て、一体こいつは何が言いたいんだ?
俺の彼女だと思ったって言ってたな、今。でも違うって分かって、笑ってるぞこいつ。
まさか笠井のやつ……。
「……お前、」
僅かな時間にこれだけ考えて、俺はある一つの答えを導き出した。
笠井は俺の隣まで歩いて来ると、ドアノブに手を掛けて、こいつを待っていた俺を置いて、一人先に部室から出ようとしていた。
「待てよ、笠井」
「何ですか」
「お前まさか、池内に惚れたのか!?」
「なっ……そんなんじゃないですよ……」
そう言って笠井は、俺を一人部室に残して、ばたんと扉を閉めやがった。
しかし笠井のあの態度。
「ありゃ図星だな……」
俺はそう呟いて、一人でニヤニヤとしていた。
これからはあいつで楽しめそうだな。
しかしまぁ、俺は優しい男だからな。協力くらいはしてやるか。
俺が部室で着替えていると、こいつ――笠井が入って来た。
「遅かったな。今まで何やってたんだよ」
俺はジャージに着替え終わると、笠井にそう尋ねた。いつもならとっくに部活に参加している時間だ。なのにこいつは、時間に遅れて来てやがる。ま、人の事言えねーんだがな(苦笑)
「委員会の仕事があったんですよ。タケ先輩こそ何やってたんですか」
笠井は、俺の隣のロッカーに荷物をどさりと置くと、チャックを開けてジャージを取り出す。俺はそれを横目で見ると、しゃがみ込んで靴紐を結び直した。
「俺も委員会の仕事があったんだよ」
「ふーん」
自分から尋ねておきながら、隣のこいつは俺の話になどさして興味もなさそうに返事をした。
俺は靴紐をきゅっと結び終えると、立ち上がって、傍らに置いていたサッカーボールを持って、部室から出ようと歩き出した。
因みに俺はサッカー部に所属していて、これでも結構強い方なんだぜ。レギュラーでもあるし。
俺は得意気に数回リフティングした後、部室の扉を開けようとした。が、
「……先輩、」
「ん?」
未だのろのろと着替えている笠井に、呼び止められてしまった。
「……」
「何だよ、笠井」
呼び止めておいて言葉を続けようとしない笠井に、俺は続きを促すが、なかなか次の言葉を言おうとはしない。
俺は体ごと笠井に向き直った。
「おい、笠井?」
「……池内さん、」
「え?」
声が小さくて、笠井が何を言ったのか聞こえなくて聞き返すと、笠井はやっと俺の方を向いた。
「……池内さんって人が、タケ先輩のクラスにいますよね?」
「池内?」
出て来た言葉と名前に俺は拍子抜けしちまって、アホみたいな声を出してしまった。
この狭い個室に妙な緊張感が漂っていて、しかもこいつはなかなか言おうとせずにもったいぶるから、何を言い出すかと少しだけ身構えてしまったじゃねぇか。
「……池内って、俺と席が隣の、あの女子の事か?」
「……はい」
「池内がどうかしたのか? てかお前ら知り合いだったのか?」
「知り合いって訳じゃないんですけど……さっき廊下でその人とぶつかったんですよ」
笠井はそう言うと、また背を向けて着替え始めた。俺は「へー」と返したけど、笠井が何を言いたいのかが分からず、その場に立ち止まって続きを待つしか出来なかった。
幾秒かの沈黙が訪れ、俺は溜息をついた。
「先行ってるぜ」
痺れを切らしそう言った。それ以上何も言わない笠井を待っていると、部活が終わっちまう(いや、実際は終わんねーけどよ)。ただでさえ委員会で遅れたというのに、これ以上遅れたら監督に何て言われるか分からない。
俺は部室に笠井を一人置いて、扉を開けようとドアノブに手を掛けた。
「先輩」
呼ばれて振り向くと、着替え終えた笠井が、短パンのポケットに両手を突っ込んだ状態で立っていた。
そして、俺を見据えながら、ゆっくりと口を開く。
「俺、その人が――池内さんが、タケ先輩の彼女なんじゃないかって思ったんですよ」
「……は?」
「でも、違うみたいですね」
そう言って笠井は、いつもの生意気な笑みを浮かべた。
俺はと言うと、思い掛けない笠井の言葉に、口をぽかんと開けたマヌケな面をしていた。が、笠井が何を言いたいのかを、俺の少ない脳みそをフル回転させて、俺なりに分析してみたんだ。
マジにさ、こいつはいつも生意気な事を言う奴なんだよ。けどよ、今みたいに躊躇するような物言い、滅多になくて。
いきなり池内の名前を出して来て、一体こいつは何が言いたいんだ?
俺の彼女だと思ったって言ってたな、今。でも違うって分かって、笑ってるぞこいつ。
まさか笠井のやつ……。
「……お前、」
僅かな時間にこれだけ考えて、俺はある一つの答えを導き出した。
笠井は俺の隣まで歩いて来ると、ドアノブに手を掛けて、こいつを待っていた俺を置いて、一人先に部室から出ようとしていた。
「待てよ、笠井」
「何ですか」
「お前まさか、池内に惚れたのか!?」
「なっ……そんなんじゃないですよ……」
そう言って笠井は、俺を一人部室に残して、ばたんと扉を閉めやがった。
しかし笠井のあの態度。
「ありゃ図星だな……」
俺はそう呟いて、一人でニヤニヤとしていた。
これからはあいつで楽しめそうだな。
しかしまぁ、俺は優しい男だからな。協力くらいはしてやるか。