きっと、これは

「……何してるんですか?」
 笠井君も僅かだが驚いた表情をしていた。それは一瞬で消え去ってしまったけれど。
「この本を返しに来たの」
 そう言って、持っていた本を見せた。
「でも、司書や当番の人がいなくて……だから戻って来るのを待ってたの」
 私が答えても、質問した当の本人は、特に返事はしなかった。
「貸して」
 そう言って私から本を奪うと、スタスタとカウンターの方へ歩いて行く。
 訳が分からず笠井君に付いて行き彼の行動を黙って見ていると、彼は本から図書カードを抜いて、判を押そうとしていた。
「勝手にしちゃっていいの?」
「俺、図書委員ですから」
 彼の行動に驚いて口を挟むと、意外な言葉が返って来た。
「そうだったんだ。あ、だからこの間も本を沢山持ってたのね」
「そう」
 私は彼をじっと見つめていた。彼と一緒にいると、こうして話していると、ドキドキしている自分がいる事に気付く。
 恥ずかしくなって彼から視線を逸らそうとすると、
「あれ? これ……、」
 彼が驚いた様子で声を上げたので、結局逸らせなかった。彼はカードをまじまじと眺めながら眉を顰めて、
「タケ先輩のカードじゃん」
 そう言った。
「ああ、その本、武本に返して来てくれって言われたの」
「……ふーん」
「あいつがその本を借りるって変だよね。しかもそれが初めて借りた本みたいだし……」
「……」
「それに今日だって、自分で返せばいいのに私に押し付けて。返すのは私じゃなきゃいけない、みたいな事言ってたし……」
「タケ先輩、そんな事言ってたんですか」
「うん」
「……ふーん」
 笠井君は、僅かに目を細めた。けどそれは一瞬で。
 その形相は怒っているのか呆れているのか、どうも掴めない様子だった。
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