依存症人生1

待ってて、待ってる

いつも通り、夕方会って・・・その日は無性に離れたくなくて。
「いったん、家に帰るけど、お母さんが仕事に行ったら呼びに来るから、
待ってて。」そう言って、秀樹と駅で別れた。

家に帰って1時間ほどやり過ごす…。
しかし、母の様子がおかしい。

いつまでたっても仕事に行こうとしない。
母はスナックのママだったのだが…
机に向かって、帳簿付けを始めた。長引きそうだ。

私は、駅で待っている彼のことを考えると、ソワソワした。
携帯がないから、メールも出来ない。

「ちょっと、ジュース買ってくる!」
無理に口実を作って、家を出た。駅までは徒歩3分。

秀樹は待っていた。
「ごめん、お母さんが、なかなか出かけん。もう、待てない?」
「いや、待てるよ。」
「1回家に戻るけど、必ず来るから待っててね。」

しかし、1時間たっても、2時間たっても母は机に向かったまま。

仕事は?、行かないの?と、しょっちゅう声をかける私の様子を
逆に、おかしく思い始めた。

そんな母をごまかすため、とりあえず、寝るふりをした私…
が!!ホントに寝てしまったからシャレにならない。

パッと目を覚ましたのは、夜中の12時過ぎだった。
母は、まだ居た。「今日は、もう行かない。」と言った。

ヤバい、ヤバい、ヤバい。
全部で5時間?6時間?
秀樹は、どうしてる?
待ってる?まさかね。

しかし、もう夜中に家を出る口実がない。
彼のことで、頭がいっぱいになった。

帰っていてくれたら、それはそれでいい。
でも、待っていたら、どうしよう。

私のソワソワに母がとうとう、イライラを爆発させた。
「あんた、何か、おかしいんじゃない?寝なさい。」
怒鳴られた。

怒鳴られついでに、「うん。おかしいよ。だから出ていくわ。」と
半分、強行突破で家を飛び出した。

引き返せない…。
駅へ向かった。

これで、秀樹が居なければ、私はどこへ行こう。
でも、いなくて当然なんだから。

暗い駅裏には、人の気配はなかった。
ほっとした半面、どうしようと思った。
会いたい気持ちが、募った。

その時、奥の方にかすかにタバコの火のような小さな明かりが
見えたような気がした。

まさか、まさかと胸が高鳴った。
駆け寄ると少しすねた様に「遅い!」と彼が言った。

「ごめん。お母さん仕事に行かなくって…。
 なんで・・・おるん?絶対、帰っとると思った。」

「だって、お前、絶対来るって言ったやん。」

「でも・・・。」

「来たやん。信じて良かった。」

涙が出そうだった。
事情を聴いた彼は、自分の家においでと、言ってくれた。

ずっと、一緒に居られる…。頭の中は、それだけだった。
お母さんに怒られることも、明日からの学校も、もう、
考えたくなかった。

大好きな大好きな秀樹…
この時は、まさか自分が彼を裏切り、傷つけるなんて、思ってもいなかったんだ。
 
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