声を聞くたび、好きになる
「そんな顔するな、ミユ。ごめんな、グチっぽくて」
「そんな、私は気にしてないよ……」
元気になってほしい。それなのに、私の気持ちはどこか引いていた。前、流星に対して向かっていた好奇心や情熱、恋心が、全く湧いてこない。
私はこんなに冷たい人間だった?
「ミユに八つ当たりしたバチが当たったんだよ。あのことは、今でも心に刺さってる……」
「もう気にしてないよ。大丈夫だから」
流星の憂(うれ)いを晴らすため、イラストレーターになったことをこの場で報告することにした。
「私、春から仕事始めたの。相変わらず家に居る率高いままだけど、けっこう忙しい作業だから、流星の言ったことなんて忘れてたよ」
「……知ってる。あの劇場版アニメ、俺も声優として出ることが内定してたから。っていうか、イラスト見た時すぐに気付いた。特徴的で他にない描き方だしな」
「流星も、あの映画に関わってたんだ…!すごいね!!」
喜ぶ私とは対照的に、流星は冷めていた。
「今はこんなんだし、その話も流れそうなんだけどね」
「……流星」
よく知る流星なのに、全然知らない人みたいに感じる。仕事を失うだけで、男の人はこんなにも変わってしまうものなのだろうか?
「ミユ、この前男と一緒にいたよな」
海音のこと、見られてた!?
流星の目が、嫌に鋭く光る。憔悴(しょうすい)した顔にその目は恐ろしいものに見えた。
逃げようと思った時にはもう、流星に両腕をかたく掴まれていた。
「流星だって、この前本屋で女の子と仲良さげにしてたよね?見たんだから!」
「あれは、高校の時同クラだった女子だ」
「そっ、そうなの??」
「仕事不調だったし、気分転換になると思って同窓会に参加したんだよ。向かう途中、時間つぶしに寄ったあの店でたまたま会っただけだ」
そうだったんだ。思いきり誤解してたよ。
でも、それを知ったからといって喜びの感情は出てこず、『ふーん、そっか』と、軽い声が漏れそうになってしまう。
掴まれたままの腕に、流星の力がわずかに加わった。
「ねえ、落ち着こうよ。流星はこんなことする人じゃないよね??」
「俺のこと、買いかぶり過ぎ」
狂気を孕んだ流星の低い声に、背筋が冷えた。