声を聞くたび、好きになる
「ミユ、俺を好きって言ってくれたよな?声だけじゃなく中身も好き、そういう意味だった?本当に?なのに何で、他の男と仲良くしてんの!?」
「流星、離してっ……」
「やっぱり俺は、ミユにとってただの兄貴なんだな。好きになってほしかった。俺はずっと、ミユを見てたのに……!」
「……!!」
力のままに抱きしめられ、直後、流星の唇が私のそれをふさごうとした。
「やめて!!」
流星の股間目がけて、力一杯右膝を蹴りあげる。
「………うっ!!」
急所にヒット!!
流星がもだえている間に私は玄関まで駆け、声を大にして叫んだ。
「私の好きだった流星は自分を持ってた!今の流星は全然かっこよくない!!ガッカリだよっ!」
流星からの反応はなかった。でも、こっちの声は聞こえたはず。
きつく言い過ぎたかもしれないけど、流星には自分の場所に戻ってほしかった。
元の流星に戻って。お願い――。
キッカケは私だったかもしれないけど、流星は私がいなくても声優をやっていけるはずなんだよ。私は、そう信じてる。ううん、信じさせてほしい。
家に帰ってからも、しばらくの間心臓はバクバクしたままだった。そっと閉めた玄関扉にもたれ、ずるずるとしゃがみこむ。
これで、良かったんだよね……?
仕事に影響が出てしまうほど流星に好かれているなんて、前の私は想像すらしていなかった。自分ばかりが、流星の背中を追っているのだとばかり思っていたから。
流星をあんな風にしてしまうと分かっていたら、もっと前に告白していたのにな。なんて、今さらこんなことを考えてもどうにもならないし、流星に失礼だ。こんなの、同情でしかないのだから……。
私は今、自分の心境の変化に初めてショックを受けていた。まさか、自分が心変わりしてしまうなんて、と――。
昔からの長い長い片想い。流星への恋はこの先もずっと続くのだと信じて疑わなかった。
流星が仕事をできなくなるくらい不調になるのも当たり前かもしれない。私は冷たい。しかも浅はかな女だ。
私が想いを伝えた時、流星は私の本質を見抜いていたのかもしれない。試すようなことを言ったというのは、そういうこと。
『ミユは俺の声が好きなだけだ』
あの時は全力で否定したけど、今は、認めざるをえない。