声を聞くたび、好きになる
流星のこと、昔から大好きだった。音楽以外の勉強は何でもできたし運動神経もいいから頼りになる。なにより、人見知りで人苦手な私を理解してくれた唯一の人。
今も、大好きだ。あんなことがあったけど、嫌いになることはないだろう。
一方、流星と同じくらい好きなものが私にはあった。それは、アニメを視聴すること。
流星に出会っていなかったら、本気で恋してしまいそうなアニメの男性キャラクターが何人かいた。実在しない物を心底愛する性質が、私の中にはあった。
そういった気持ちが身近な流星に転移して、彼を好きになったと思い込んでいた可能性もある。
私は、恋愛ごっこをしてただけ。一人都合のいい妄想を流星相手に展開していただけ……。
流星のことを、振り回してしまった。
3年もの長い間、流星に家の合鍵を渡して、ずいぶん期待させていたかもしれないのに、妹を装って……。
流星が傷付くのは当然だ。
私は、自分が傷付きたくないあまりに流星への告白を我慢してきた。それと同時に、流星に対して鈍感で無神経な人間になっていたんだ……。
今でも流星のことを好きだったのなら、まだ良かった。恋愛感情が海音に向かっているから質が悪いのだ。
イラストレーターになって仕事も順調。海音に優しくされて浮かれて。
自分は世界一幸せな人間だと思い上がっていた。流星の気持ちを踏みつけているとも知らないで。……ひどい。ひどすぎる。
急に、今までの自分が恥ずかしくなった――。
有名イラストレーター。私は、こんな光の当たる場所に居たらダメだった。
完全在宅の仕事だから長続きしているけど、ニートでいるべきだった。
休暇中なので、やり場のない不安定な気持ちを仕事で紛らすわけにもいかないし、流星の手前、アニメを見る気にもなれない。
だいぶ前薬局で買った睡眠導入剤を頼り、私は睡眠に逃げることにした。めったに薬なんて飲まないので、30分もしないうちに効き目は現れた。
どれくらい眠っていたんだろう?
真っ暗な部屋に響くインターホンの音で目が覚めた。パソコンデスクの上で明滅するスマホの光が、寝ぼけ眼に痛い。
部屋の明かりをつけスマホを確認すると、海音から何度か着信があった。
インターホンは絶え間なく鳴り続ける。
スマホ片手に、私は玄関に向かった。