声を聞くたび、好きになる

 明かりを付けると、訪問者は玄関の扉越しに私の名前を呼ぶ。

「ミユ!いるのか??」

 海音!?

 こんな時間に来るなんて初めてだ。

 扉を開けるなり、思い詰めた表情でこめかみに汗を流す海音の姿があらわになる。

「どうしたの?」
「電話出ないから、心配で……」
「わざわざ来てくれたの?こんな時間に……?」
「…………」

 黙り込み、海音は深い瞳で私を見つめる。胸がドクンと高鳴った。

 あの時と同じ……。酔っ払った私を助けてくれた時、好きだと伝えてくれたあの目だ。

「電話出ないから、何かあったのかと思った……」
「ううん、寝てただけだよ」

 作り笑いで答えた。

 海音は優しい。流星のことで落ち込んでいるなんて言ったら悩ませてしまうだろう。これは私の問題だから、海音を巻き込んではいけない。

 ……それに、海音に好かれていることに幸せを感じたらいけない。大切な仕事を奪うくらい流星を傷付けた私に、恋愛する資格はない。

 流星は言った。私に八つ当たりしたからバチが当たったんだって。でも、それは違う。海音に甘えて浮かれていた分、天罰を受けなくてはならないのは私だ。

「本当に寝てただけ?目、赤いけど」

 鋭い。海音は、その指先で私の目元にそっと触れる。

「薬飲んで寝たからかな?最近仕事ハードだったし、寝貯めしてみた」
「無理して明るく振る舞ってない?前のミユに逆戻りしてる」
「っ……」

 海音に、ちゃんと言わないと……!

「逆戻りなんてしてない。私はただ、仕事相手として話してるだけだよ」

 出来るだけ冷たい言い方をした。

「海音、前に、好きって言ってくれたよね?その返事、今してもいい?」
「……うん。聞く」

 一瞬ためらいの色を浮かべたが、海音は覚悟を決めたように私をまっすぐ見つめた。純粋で熱い気持ちが、その視線から伝わってくる。

 だからこそ、これから口にする作り物の言葉は、言うのにそうとう勇気がいる。恐いけど、言わなければ……!

「海音のこと、好きだよ。でも、それは仕事の人としての感情で……。悪いけど、これから先、海音を恋愛対象として見ることはないよ。ごめんね……」

< 105 / 132 >

この作品をシェア

pagetop