声を聞くたび、好きになる

 行かないでほしい……。

 海音が、好き。誰よりも。


 ――海音とは恋愛感情で付き合えない。ウソで彼の気持ちを拒絶した瞬間、流星に対する罪悪感が和らいだのも本当だった。

 アホで無神経で調子のいい女だけど、これで少しは許されたかな??


 時間をかけて手に入れたものを、流星は全て失った。

 私も同じように、手に入れた物全部を手放すつもりだったけど、今の仕事だけは捨てたくない。やり遂げたいと思う。

 海音にあんな顔をさせてしまった以上、仕事まで無責任に放り出してはいけない。

 未練がましいけど、仕事仲間としてなら、海音との接触を失わずに済む……。



 一週間あった休暇は、スケッチの練習をしたり近所の宅配ピザ屋全制覇をクリアしているとあっという間に消化された。

 気分的にも状況的にも、アニメは見なくなっていた。

 描く作業に集中していると時間が早く過ぎる。それと同じように、休暇中の時間も、ゆったりのんびりしているわりに早く過ぎていく。


 スマホに見知らぬ番号から電話がかかってきたのは、休暇最終日の夕方だった。

 誰だろう?もしかしたら、まだ直接話したことのない出版社の人かもしれない。気を引き締めて電話に出る。

 声から推測すると、相手は二十代なかばくらいの女性で、クールな話し方が特徴的な人だった。

「初めまして。戸塚さんの携帯電話ですか?私は秋吉エリカといいます」
「アキヨシさん、ですか。初めまして。戸塚ミユです」

 仕事のおかげで、近頃、電話で話すことにも慣れていた。それに、秋吉さんと名乗る相手の口ぶりはどこか海音の仕事モード時と似ていて安心する。

「秋吉さんは、紙川出版の方でしょうか?」
「違います。私は、芹澤海音と付き合っている者です」
「え……?」

 頬が熱くなり、全身の血が逆流する感覚がする。お腹がどんよりと重くなった。

< 107 / 132 >

この作品をシェア

pagetop