声を聞くたび、好きになる

 海音の彼女さん!?そんな話、本人からは聞いてない。

 二人はいつから付き合ってるの?私が告白を断った後に、海音は秋吉さんと付き合い始めたの?

 そのどちらでもなく、海音は秋吉さんと私で二股をかけようとしていた?

 どれも、ありうる可能性。

 海音は、ただ立っているだけで女性の目を惹く。そういう男性は世の中に多いかもしれないけど、海音は内面も美しい。ちょっと意地悪だけど性格がいいし仕事も出来る。編集長も、海音は社内で評判がいいと言っていた。

 そんな人が、女子力の低い私に真面目に片想いするわけがないんだ。海音のくれた好意を本気にしてた自分が恥ずかしくなる。

 こちらの落ち込みに輪を掛けるように、秋吉エリカさんは告げた。冷静ながらも裏に怒りがこもっている声音で。

「海音と私は専門学校で同じクラスになりました。気が合い、当時から付き合っています。

 失礼なのを承知で、海音のスマートフォンからあなたの電話番号を調べさせて頂きました」

 だから、こうして私に電話してこれたんだ……。付き合ってるならしょっちゅう会うのだろうし、お互いのスマホをこっそりいじる機会はいくらでもあるのだろう。

 秋吉エリカさんと海音は、同い年。二十六歳、か……。どうりで大人っぽい話し方だと思った。二人の関係がいかに濃密かが伝わってきて、落胆(らくたん)する。


「編集者という職業柄、彼が女性と親しくすることもさして珍しいことではありません。仕事ですから。付き合いでキャバクラにも行くし、必要とあれば女性と二人きりで飲みにも行きます。そこは私も理解していますし何とも思いません。でも、最近の彼は調子が悪い……。戸塚さん、あなたのせいで」
「私は、何も……」
「いいえ。あなたが彼の足を引っ張っているんですよ。あなたはイラストレーターとして高く評価され、立派に活躍なさっている。でも、前は無職だったんでしょう?そんなあなたがご自分の才能だけでそこまで成り上がれたと、本気で思っています?」
「それはっ……」

 何も返せない。その通りだ。

 秋吉さんの言葉ひとつひとつが耳に痛かった。ニートだった頃ネット上で無職の人間を悪く言う掲示板を見つけた時以上に、胸に刺さるものがある。

 彼女がなぜそんな尖ったことを言ってくるのかいまいち分からないけど、敵意のようなものはびしびしと感じられる。

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