声を聞くたび、好きになる

「海音は、戸塚さんの仕事を安定させるために自分を犠牲にしているんです」

 苛立ちを隠さず、秋吉さんはまくし立てた。

「あなたの作品を推すために外部の人と揉めたり、地方に住むあなたのサポートを優先するあまりに睡眠不足になって仕事中にケアレスミスをしたり……。海音は自分の体だけでなく人望や人間関係も犠牲にしています。戸塚さんがもっと自立していたら、海音がここまですることなかったのに!」
「すみません。そんなに迷惑をかけているなんて知らなくて……」

 ううん。知っていた。私のイラストに寄せられる悪い評価を影で弾いたり、より多くの仕事を取るため海音に手間をかけさせてしまっていること。私が思っている以上に、海音には負担をかけていた。

 そんな彼を心配するあまり秋吉さんが私に怒りを向けるのは仕方ないと思った。突然のことに戸惑い、秋吉さんには謝ることしかできない。

「芹澤さんにはいつも頼ってばかりでした。これからは負担をかけないよう出来るだけ気を付けます。本当にすみません……」
「そう思うんだったら、イラストレーター辞めて下さい!」
「それはできません!」

 この時までは、何があっても仕事だけは守る気でいた。やっと見つけた私の居場所だから――。

 秋吉さんが最後に放ったセリフは、私の中に築かれた唯一の砦(とりで)をいとも簡単に崩したのだった。

「戸塚さんは、やっぱり鈍感な人ですね」

 鈍感。流星を追い込んだのだと自覚した直後なだけに、その言葉にはデリケートになっている。私は歯を食いしばった。

「ここまで言っても分からないようだから教えてあげますね。海音、こう言ってましたよ。あなたみたいなイラストレーターのおもりはしたくないって!編集長の手前親切にしてるけどさっさと辞めてほしいって!戸塚ミユは元無職のクセにちょっとチヤホヤしたら勘違いしてなついてくるから転がしやすいけど、新人のクセにプロを気取ってウザいし手のかかる面倒な女だってね!!

 ちなみに、なぜ戸塚さんが紙川出版に引き込まれたか分かる?あなた以上に腕のあるイラストレーターが病気で仕事を辞めたからよ!」 

 ブツッ!電話は一方的に切られた。

 スマホ片手に、私は放心する。

 海音が、私のことそんな風に言っていたの?信じられない。

 でも、交際相手の秋吉さんが言うことだ。間違いない。病気で仕事を辞めた人の代わりを探して、海音は嫌々私と関わっていたんだ……。

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