声を聞くたび、好きになる
秋吉さんの最後の言葉が、何度も頭の中に繰り返される。
「そうだよね。ニートがなに勘違いしてたんだろね」
ショックが大きすぎた。頭痛が始まる。
それから一時間以上経っても、秋吉さんからかかってきた電話の余韻は消えないまま、痛みと共に強く響いていた。
どこも切っていないのに、体のどこかから全身の血が流れ出ていくような感じがした。秋吉さんの電話を受けた瞬間からずっと、心臓が激しく音を立てている。
タイミング悪く、海音からの電話が鳴った。休みは今日までだから、明日からの仕事について話すためにかけてきたのだろう。
どんな顔をして出ればいい?かといって、無視をしてさらに面倒なイラストレーターだと思われるのも嫌だ。
「はい……」
義務感でようやく出たはいいが、声がうわずる。それだけで海音はこちらの異変を察した。
『どうした?いつもと違う。体調悪くしたか?』
「ううん。元気だよ」
『…………』
沈黙が気まずい。仕事なんだからしっかり対応しないといけないのに、普通に話す方法すら分からなかった。
『何かあったのか?無理してるの、すぐ分かる』
「……ははは」
意味のない笑い。そういう反応しかできなかった。
いつもと同じ海音の優しい声を聞いていたら、悲しみと疑問が次々と溢れてきた。
どうして、秋吉さんのこと話してくれなかったの?
どうして、不満を私に直接言わず秋吉さんに言ったの?
どうして、あの日好きだなんて言ってきたの?
全て、編集者として仕事をスムーズに運ぶため?
『どうしたミユ。今日はおかしい。隠そうとしてるんだろうけど……』
おかしいのは昔からだよ。心の中でそう返す。
『何か悩みでもある?俺で良ければいつでも言って』
「……じゃあ、訊いていい?」
『何でも言って』
「海音って、今まで女の人と付き合ったことある?」
『…………ある』
認めた。海音は、秋吉さんとのことを隠さなかった。
「その人と、どのくらい深い関係だったの?」
『どうした急に……。言わなきゃダメか?』
「教えてくれなきゃ仕事しない」
『なっ!……分かったよ』