声を聞くたび、好きになる
創作に駆り立てる何かがほしい。この仕事を中途半端に投げ出したくないから……!
自分を突き動かすための言葉を求めて必死に相談サイトを見回っていると、編集長から電話がかかってきた。
今は誰とも話したくないけど、無視するわけにもいかず明るい声を作って対応した。
「いつもお世話になってます」
『戸塚さん……!今いい?落ち着いて聞いてね!?』
編集長はやけに慌てている。普段は堂々とした話し方をする人なのに、何かに怯えているみたいにも見える。こんな編集長、初めてだった。
嫌な予感で、胸が重くなる。
「はい、大丈夫です。何かありましたか?」
『君の作品が盗作だって主張している人がいるんだよ。そのせいで、某掲示板やツイッターも炎上してて……』
「そんな……!盗作なんてしていません!!」
思いもよらない単語に、私はショックを受けた。
そんなこと、絶対にしない。ヘタレでバカで鈍感でダメな女だけど、仕事に対するプライドだけは捨てていないつもりだ。人の作品を盗むくらいなら、イラストレーターなんてとっくに辞めている!
編集長も、今までの仕事ぶりから私の思いを感じ取ってくれていた。
『大丈夫、分かっているよ。君がそんなことするわけない。悪質な嫌がらせだね』
「嫌がらせ……?」
『うん。君は新人とは思えないくらい、急速に活動の幅を広げている。マイナーな仕事しかもらえない一般的な新人と違って、いまや誰もが知る有名ゲームのキャラクター原案なども手がけているでしょ?あまりこんなことは言いたくないけど、内側にも敵がいると思った方がいい』
「内側、とは?」
編集長は言いにくそうにためらったが、最後にははっきりと告げる。
『例えば、君より先にデビューした紙川出版専属のイラストレーターとかね。プロの先輩に行くはずだった仕事も今は君に流れているから、それを快く思わない者も多いと聞いている』
「……そうだったんですね」
モモと居酒屋で話した時のことが、再び頭をよぎる。
『嫉妬したりされたり。妬まれると、時にあることないことでっち上げられて足を引っ張られる。芹澤君もこうならないよう社内で必死にカバーしてくれてたんだが、残念ながらこんなことになってしまった』
海音、そんなことまでしてくれていたの?いくら編集とはいえ、そんなことばかりしてたら嫌にもなるよね。あちこちに気を遣って気の休まる時がなさそうだ。
『これは、多かれ少なかれプロならば誰もが経験すること。あまり深く受け止めなくていいよ。君にはその才能があるのだから』
「……はい。ありがとうございます」
信じてもらえて良かった。編集長の言葉は純粋に嬉しかったし、気持ちが弱っていたせいか涙が出そうになる。
どうしてこんなことに?誰が言い出したのか知らないけど、言いがかりにしても盗作疑惑のデマを流すなんてひどい。
モモに嫉妬したから、私もそういう感情を抱いてしまう人の思考は分かる。人は、自分が欲しいのに手に入れられないものを持った人をうとましく思い、時に敗北感を覚える。
だからといって、広い心を持って水に流すなんて無理だし、私が消えることを望む人達にヘコヘコ媚びを売る気もない。今までイラストにかけた想いを踏みにじられたようで、本当に腹が立つ。