声を聞くたび、好きになる

 ついてこられるのは困るけど、夜道の心配をしてくれたことはありがたかった。

 こんな風に見知らぬ男の子と会話するなんて、前の私では考えられない。いつの間にか、人と接する力を海音に鍛えてもらっていたんだな……。


 ――ミユの笑顔、いいよな――。

 全く知らない場所に来てまで、海音の声を思い出している。

 そんな自分にも、この状況にも、ため息が出た。

 今まで乗ってきた電車を見送ると、私は力なくベンチに座った。じめっとした空気が夏草の匂いを運んでくる。

「次の電車が来るまで、私はここで待つよ」
「じゃあ俺もそうする」
「君は家に帰らないの?」
「そんなに歳離れてないでしょ?子供扱いしないでくれる?」
「私は二十歳。君は?」
「十七だよ。高2」
「三つも下なら子供だよ」

 男の子はわざとらしくため息をつき、

「彼女と同じこと言う。あ、別れたから元カノか」
「元カノさん、歳上だったの?」
「うん。お姉さんより歳上だよ。二十三歳」
「二十三!?」

 流星と同じ歳だ。しかも、この子と元カノさんは六歳差のカップル。海音と私も六歳離れている…!そう気付いた瞬間、ナマイキなこの童顔男子に親しみを感じてしまった。

「俺と彼女歳離れすぎだし、男として見られてなかったに決まってる。……そう思ってるでしょ?」
「そんなこと思ってないよっ!どうやって知り合ったの?」
「彼女、俺が通ってる塾の先生なんだよ。高1から通ってるんだけど、初めて見た時タイプって思った。一目惚れ」

 すごい。付き合ってたってことは、その先生とは教師と教え子っていう立場を越えて両想いになれたってことだよね!?

 感心して聞いている私に気分を良くしたのか、男の子は楽しそうに語る。

「塾に行くたび、先生のこと好きになった。でも、あっちは大人だから俺のこと恋愛対象には見てくれないかなって思えて諦めようとしたんだ。けどやっぱり好きな気持ち止まんなくて、今年の4月に告白した。『先生だから生徒と特別な関係にはなれない』って理由ではじめは断られたけど、ダメもとで何回も好きって伝えたら付き合ってもいいよって言ってくれた。すっごい嬉しかった。

 塾ではしっかりしてるのに、俺といる時は甘い物食べまくったり変なぬいぐるみ見て可愛いって言ったりするの見て、先生も女の子なんだなぁって……」

 先生のこと、とても好きだったんだろうな。男の子は幸せそうな顔で彼女との思い出を話している。

「でも、さっき電話で、やっぱり付き合えないって言われた。花火大会の待ち合わせ場所に着いてすぐに。俺のことは好きだけど、やっぱり周りの目が気になるんだって……」
「そっか、そんなことが……」

 いつかまた、この子と先生が付き合えたらいいのに。そうなればいいのに。そう思ったけど、口には出せなかった。

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