声を聞くたび、好きになる

 花崎華さん。本名はまだ明かされていない新人の女性声優さんだ。

 芸名のセンスはともかく、彼女の演技は新人と思えないほど上手で、初めてこの人の声をアニメで聞いた時は可愛いとかすごいっていう感想を越えて鳥肌が立った。

 しかも、一度雑誌に載せられた彼女の容姿は極上で、話し方もサバサバしていることから男性ファンだけでなく女性ファンも多い。

 『声優界の上級女神』という通り名もある。それくらい、人を惹き付ける何かが彼女にはあった。間近で見たらまぶしすぎて直視できないと思う。

 流星も、前々から彼女の実力を高く評価していたから、今回彼女と飲みに行ったのは仕事をする上で大きな刺激になったみたいだった。

「外見だけじゃなく、花崎さんは声優として日常生活にまで気を配ってる。昨日も、彼女、酒は一滴も飲まなかったんだ。声に影響が出るからって。プロ意識が半端じゃない。先輩面してた自分が恥ずかしかったよ……」
「流星、思いきり飲んでたもんね」
「んー、なんかな。飲みたくなった。俺も普段から努力してたつもりだったけど、花崎さんには敵わないっていうか」

 日記に落としてきたはずのモヤモヤした気分が戻ってきそうだ。私はソファーに寝そべり、目を閉じる。

< 22 / 132 >

この作品をシェア

pagetop