声を聞くたび、好きになる

 メールを受け取って1時間後。

 一生懸命考えて、私は芹澤さんに返事のメールを返した。

《初めまして。この度はイラストを高値即決して下さり本当にありがとうございました。口座番号は下記になります。ご都合の良い時にお振り込みをお願いします。

申し訳ないのですが、イラストレーターの件はお断りします。紙川出版は私もよく知っていますし、私の大好きなアニメや小説の販売を手掛けている出版社なので、そこの方から声をかけていただけるなんて夢みたいでした。でも、大手出版社の専属イラストレーターなんて、社会人経験のない私には勤まらないと思います。高校を卒業してからずっと無職で、人と関わるのも苦手なのです。

イラストは、これからもオークションサイトのみで出品していきたいと思います。私なんかのイラストにそこまで言ってもらえたことは本当に嬉しかったです。ありがとうございました。》

 特技のイラストを生かせる大きなチャンスを、私は自ら手放した。後悔はない。

 下手にOKの返事を出し知らない人達との関わりに疲れ仕事ができなくなったら、ものすごく迷惑をかけてしまう。これで良かったんだ。

 こんな奇跡、私の人生には二度と起こらないだろうな。


 気乗りしないままパソコンに向かいポツポツとイラストを描くことで、見知らぬ芹澤さんへの罪悪感を拭おうと試みる。頼まれごとを断るのって、想像以上に精神力使うものなんだなぁ……。
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