声を聞くたび、好きになる
「それ、どういうこと?」
尋ねると、モモは待ってましたと言わんばかりに勢いよく語りだした。
『芹澤さん、ミユのこと女として見てる気がする!』
「それはないよ。会ったこともない人だし」
自慢じゃないけど、私は“年齢イコール彼氏いない歴”を人知れず更新中の身。
高校までずっと共学だったけど、男子に告白されたことは一度もなかった。たとえ誰かに好意を打ち明けられていたとしても、流星への恋を理由に断ったけれど(そもそも、仲良く会話するような男子がいなかったが)。
そんな非モテの私が、見知らぬ男性に好かれるなんてあり得ないと思う。でも、モモからしたら、面識のあるなしは関係ないようだ。
『会ったことのない人を好きになるって、よくあることだよ。専門の友達も、メールのやり取りだけでSNSで知り合った人を好きになって付き合ったって言ってたし、実際会った後も両想いのまま仲良くやってるよ』
「そうなんだ……」
身近でそんな話を聞くことになるとは思わなかった。人のそういう話を否定する気はないし、むしろ出会い方としては全然アリだ。ネットやテレビの話題としてもよく取り上げられているから、さほど珍しいことでもない。
けど、そういう現象が自分の身に起こるのだとしたら話は別だ。占い通りのことが現実に起きたーみたいな、驚きに近い違和感というか、むず痒(がゆ)さを感じてしまう。
モモはさらに、私を驚かせた。
『漫画の背表紙に、ミユと撮ったプリクラを貼ったでしょ?ミユと作ったあの漫画、文化祭の出し物としてかなり人気が出たから嬉しくてさ。その記念にって、文化祭の帰り道に撮った時の……』
「うん、私とモモの分、二冊の漫画の背表紙にプリクラ貼ったよね。おそろいにしたくて」
『そうそう、それ。芹澤さん、プリクラにも気付いてさ。ミユのこと可愛いって言ってた!それとね……』
高校時代、バイトもせずイラストを描くことだけに没頭していた私は、今ほどオシャレにお金をかけていなかった。むしろ、客観的に見てもあか抜けない高校生だったと思う。
お母さんは月に三千円のおこづかいをくれたけど、その貴重なお金はイラスト用の画材やアニメグッズを買うとあっという間に無くなってしまった。
そんな日々に満足する一方、通学中の電車などで可愛い女子高生を見かけるとドキッとしたし憧れた。サラサラの髪、かすかに香る女の子っぽい柔らかな匂い、フワフワの雰囲気。私もあんな風になれたらなぁってうっとりしていた。
直後、電車の窓に映る自分の姿を確認するとげんなりした。三ヶ月以上手入れしていない真っ黒の髪は重々しい印象を強調しているし、化粧していない地味な顔が陰気さを極めている。
憧れの女の子とは雲泥の差だ。