声を聞くたび、好きになる

 芹澤さんが私のイラストを気に入ってくれた。百歩譲ってそれは信じるとしよう。

 でも、芹澤さんが高校時代の地味な私に可愛いという感想を抱いたなんて、信じない。色々メンテナンスしている今の姿を見てそう言うのならともかく、全然手入れしていない頃の私に良い感想を抱く男の人がいるなんて信じられない。

「芹澤さんのこと教えてくれてありがとうね、モモ。でも、私は今でも流星を好きなのは変わらないし、芹澤さんが私を好きになるなんてないんじゃないかな」
『ミユ……』

 考え込むように間を置くと、モモは穏やかに言った。

『そうだよね。ミユが流星さん一筋だってことはよく分かってるよ。なんかごめんね。同じ学校の先輩にミユのこと誉められたことがすごく嬉しくて気持ちが高ぶって、つい一人で盛り上がっちゃってた』
「ううん、こっちこそごめんね」
『恋愛のことはともかく、イラストの件では芹澤さんの目を信じていいと思う。私も、ミユの腕はプロ並みだと思ってる。高校出てからますます上達してるし』

 モモが私のことをそんな風に思っているなんて知らなかった。

 他にやることがない。それだけの理由で続けてきたけど、昔から欠かさずイラストを描き続けてきて良かったのかもしれないと、この時、少し思った。

「実は、さっき、芹澤さんからメールが来て、紙川出版専属のイラストレーターにならないかって言われたんだ」
『本当に!?』

 芹澤さんと交わしたメールのやり取りを、かいつまんでモモに話す。

「この後、その件について芹澤さんと電話しなきゃならないんだけど、気が進まなくてさ……。在宅の仕事は魅力的だと思うけど、紙川出版なんて有名なんてレベルの出版社じゃないから。仕事となったら、今みたいに気楽には描けないだろうし……」

 ウンウンと相槌(あいづち)を打っていたモモは興奮気味に言った。

『ミユの考えは私も理解してるけど、それを含めて考えても、ミユは芹澤さんとちゃんと話した方がいいと思うよ。芹澤さんは、今のミユの暮らしぶりっていうかスタイルみたいなのを分かっててスカウトしてきたんだから。ミユ、そうとう見込まれてるよ!』
「うーん……。評価してもらえるのは嬉しいけど……。高校出てから、モモや流星以外の人としゃべってないから、芹澤さん相手にちゃんとしゃべれるかどうか……。しかも、敏腕編集なんだよね?ますます胃が痛くなってきた……」
『肩書き見たら緊張するのも仕方ないけど、大丈夫!芹澤さん、先輩とは思えないくらい話しやすい人だったから。しかも、流星さんに負けないくらいかっこよかったよっ。ミユの才能、このまま埋もれさせるのもったいないよ。私も応援するし、何かあれば話聞くから、ねっ!?』

 モモとの会話で少しだけ勇気をもらった私は、思いきって芹澤さんにメールを送ることにした。

《芹澤さんへ

さきほどはメールありがとうございました。こちらはいつでも電話できます。

戸塚ミユ》

 できるだけ丁寧な文章を心がけたけど、うまく書けた自信がない。こんなんでいいのかな?

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