声を聞くたび、好きになる
送信後、1分もしないうちに芹澤さんからのメールが届いた。あれからずっと私からのメールを待っていたのだと分かる返信の速さだ。
《戸塚ミユ様
お時間を作って下さり本当にありがとうございます。では、5分後にこちらから連絡させていただきますね。よろしくお願いいたします。
芹澤海音》
お待ちしています。短い返信をし、私はスマホを強く握りしめた。
知らない人と、電話で会話。顔を見なくて済むのは助かるけど、だからといって緊張感は消えない。
――芹澤さん、ミユのプリクラ見て可愛いって言ってたよ――。
モモの放った明るい声を思い出し、ますます胸がドキドキしてしまう。
ないない。芹澤さんは一社会人として社交辞令を言っただけだ。そう思い込むため、私は意識を自分の内側に集中させる。
芹澤さんから電話がくるのは5分後。
ゴロゴロしたりイラストを描いたりアニメを見たりしているとあっという間に過ぎる5分。わずかな時間。今は、気が遠くなるくらい長く感じられる。
ドクン、ドクン。
静かな部屋に、ひとりきり。知らない人からの電話を待つ。こんなにも胸が刺激されたのは、流星と別れた日以来だ。
大好きな人に離れていかれる瞬間のドキドキと、新しい人に関わる前のドキドキ。似ているようで、だいぶ違う。
芹澤さんと、うまく話せますように。私のせいで悪い空気になりませんように。瞼(まぶた)をギュッと閉じ、強く願った。
流星も、アフレコの時はこんな風に緊張していたのかな。
今の自分の状況に想像上の流星を重ね切なさに胸が苦しくなった時、スマホが着信音を鳴らす。
知らない番号からの電話。芹澤さんだ――!
震える手で通話ボタンをタッチする。
『もしもし。さきほどメールでご連絡をいただいた紙川出版の芹澤と申します。こちらは、戸塚ミユ様の携帯電話でしょうか?』
遅すぎず早すぎないテンポ。聞き取りやすくて落ち着いた若い男の人の声。それが、芹澤さんの声に対する第一印象だった。
「はい。戸塚ミユの携帯電話です。どうも」
気の利いた言葉も浮かばず、つぶやくようにそう返すのが精一杯である。