声を聞くたび、好きになる
芹澤さんは言った。
今回オークションサイトで芹澤さんが高値即決したイラストの代金は、すでに私の口座に振り込んだ、と。
『戸塚さんの才能を最大限に生かしていただけるよう、我々は尽力します。私達に力をかしていただけないでしょうか?戸塚さんのイラストを世に出し、私が感じたような想いと感動を、一人でも多くの方に感じてもらいたいのです』
芹澤さんだけじゃなく、出版社の人達は皆、私がイラストレーターとして働くことに賛同しているらしい。そこまで話が進んでいるなんて思わなかった。
断ろう。そう思った時、一瞬、流星の顔が頭をよぎる。
こんな時、流星だったらどうするんだろう?
声優の仕事の話をしている時、流星は言っていた。
「俺にはできないことばかりだから、難しい役を演じることが決まると躊躇(ちゅうちょ)もする。でも、頭から出来ないと決めつけるのは簡単なんだ。そこで逃げずに自分と向き合ってはじめて壁を壊せる。無理めなことに挑戦する過程に意味があるんだから、失敗は恐れない」
がむしゃらに努力し苦難を乗り越えた流星だからこそ、若くして有名な実力派声優になれたんだ。そう思え、私は流星のことをますます尊敬するようになった――。
彼の仕事に対する姿勢はいつも前向きでまっすぐで、すごくかっこよかった。
今まで私は、自分が苦痛を感じそうなことから逃げ続けてきた。その結果、流星の弱さを受け止められない女だと流星に判断させてしまったんだ。
私にどこまで出来るのか分からないけど、イラストレーターの仕事を通して違う自分を見てみたい。新しい自分の可能性を見つけたい。生き甲斐を感じながら暮らしてみたい。
なにより、流星のために成長したい。
流星から優しさをもらってばかりの女じゃなく、仕事の良さややりがいを語り合えるような女になりたい。
「分かりました。精一杯やります。頑張らせて下さい……!!」
心の奥から全身に根付いた流星の存在に励まされ、私は前向きな返事をした。
『ありがとうございます!我々も全力で戸塚さんの作品作りに協力いたします!』
芹澤さんは芹澤さんで、私を説得することに緊張していたらしい。
『良かった……』
気の抜けた声で、芹澤さんはつぶやく。
『ダメだったらどうしようかと思いました……。今やっと、心臓バクバク状態から解放されましたっ』
それまでの凛々しい口調とうって変わって、芹澤さんの声音はリラックスモード全開になる。電話越しで声しか聞こえないからなおさら、声にこもる感情が強調された。
「編集者さんでも、緊張するんですね」
まずいっ!また、言いたいことを言ってしまった!芹澤さんのゆったりした雰囲気につられた~なんて、言い訳だよね!?
「すみませんっ、さっきから失礼なことばかり言ってますよね、すみません、本当に……」
顔がカーッと熱くなった。
すみませんの言葉しか出てこないのが情けない……。こういう時に、自分の暮らしを恥ずかしく感じる。学校や仕事に行っていたら、今よりは会話上手になれていたかもしれないと考えてしまうから。ううう……。