声を聞くたび、好きになる
「私がミルクティーを飲むのは意外だと思ってますか?」
「そんなことはっ」
「思っていることが顔に出ていますよ」
意地悪な笑みを浮かべる芹澤さん。
「すみません。戸塚さんの反応が可愛くて、つい、突っ込んでしまいました」
「へっ!?」
可愛い!?そんなこと、流星にすら言われたことないぞっ!
意味ありげな視線を送ってくる芹澤さんを前に、顔がみるみる熱くなっていく。
「からかわないで下さいっ」
芹澤さんの前に淹れたてのお茶を出しながら、私はそう言い返した。芹澤さんはたいして気にしていないらしく、スッとカップに手を伸ばす。
「わざわざありがとうございます。いただきます」
編集者らしい表情に戻ると、芹澤さんは綺麗な動作でミルクティーに口をつける。おいしいとつぶやいて。
「からかったつもりはありませんよ」
切なげに、かつ、丁寧に、芹澤さんは言った。
「私達はこれから仕事のパートナーになります。遠慮なくぶつかってきて下さいね。冗談も存分に言い合いましょう」
「は、はあ……」
「とはいえ、若い女性に可愛いなどと言ったらセクハラになってしまいますね。以後、気をつけます」
「えっ?」
セクハラ?よく、ニュースとかで話題になってるあの?
「そこまでは思ってないです。それに、私も二十歳に…大人になりました。芹澤さんは同じ二十代に見えますけど、何歳なんですか?」
「二十六になりました。二十歳の女性からしたらいいオジサンでしょう?」
「そんなことないですっ!大人の男の人って思います!」
芹澤さんをオジサン扱いしたら、世の中の中年男性はどうなるんですか。皆オジイチャンになってしまいますよ。
失礼にならないよう気を付けつつ、私は言った。
「男の人に誉められるのとか冗談を言われることに慣れていないんです、私。だから、芹澤さんに可愛いって言われても、どう反応したらいいのか分からなくて……」
「そうでしたか。分かりました。心得ておきますね。困らせてしまってすみません」
それ以来、芹澤さんが可愛いと言ってくることは一切なかった。
淹れた紅茶の温度が冷める頃、芹澤さんは仕事の話を始める。
テーブルに数枚の書類と、紙川出版発行のサンプル画集を置かれた。
「戸塚さんには在宅で作業をしていただきますが、専属契約を結んでいただく条件として、今後はオークションへの出品を一切辞めていただかなくてはなりません」
「分かりました」
「ありがとうございます。それでは、こちらに目を通していただけますか?」