声を聞くたび、好きになる
自分の夢は叶わなかったけれど、その分、夢を叶えた人をサポートしたい。迷いのない口調で、海音はそう語った。
無理なんかしていない、自然な気持ちが伝わってくる。
私にも、海音のように自分の仕事を誇りに思える時がくるのかな。いつか、そうなれたらいいな。
「大人になって、時間にも金にも余裕ができて、いつの間にかこういうことしなくなってた」
ミルクティーの缶を両手で挟み、海音はこっちを見た。
「いいな。こういうの。ミユとだから、そう思うのかもしれないけど」
「……うん」
それ以上、言葉を交わすことはなく、私達はただただ海を眺めていた。
暑くもなく寒くもない春先の海には、ついつい長居してしまう居心地の良さがあるのかもしれない。
海音につられたのだろうか。私もこうやって海音と過ごす時間は悪くないかもしれないと思った。
天気が良くて雲もない。空は抜けるような青色をしている。
繰り返す波の音と穏やかな青空が、荒れていた心の内をそっと包み込んでくれるようだった。
海なんて、子供の時以来来ていなかった。外出嫌いな私には無縁の場所だと思っていたけど、静かな砂浜はとても居心地がいいからクセになってしまいそう。
「お腹、空いてない?」
海音が尋ねてくる。
「そう言われてみれば……」
スマホで時間を確かめる。昼の1時。旅館を出てからもう四時間も経っている。
そういえば、昨日はお酒以外口にしていないし、今日もミルクティーしか飲んでない。モモと飲んだ時以降、まともな物を食べていない。
そんなことを考えていると、お腹が鳴る。かといって空腹感があるわけでもなかった。
「お腹空いたような、空いてないような……」
「ミユ、ずっと食べてないでしょ」
「何で分かるの!?」
「あの酔い方見ればね」
空腹にアルコールを流し込むと酔いが回りやすいと、海音は言った。私は身をもってそれを実感する。
「ちゃんと栄養取らないと。イラストレーターは体が資本なんだから」
そう言い海音が連れてってくれたのは、近くの船着き場に停まった屋形船。
春から秋にかけ、この浜辺では1日に2回屋形船を出しているらしく、乗客は船内で取れ立ての魚介類を食べられるそうだ。
「普通なら予約が要るんだけど、今日は特別」
海音は得意気なまなざしで私を見下ろし、案内してくれた。