声を聞くたび、好きになる
「もしもし、戸塚ミユですが……」
『お世話になっております。芹澤です。戸塚さん、ご連絡お待ちしていました』
口調は編集者そのものだけど、電話に出たのは海音なのだと、声ですぐに分かった。
彼は仕事とプライベートで話し方を分けているらしい。当然か。それが社会人だよね。
指示されるまでもなく、私は海音に合わせて丁寧な話し方をした。
「原案、見てもらえましたか?」
『はい!素晴らしい出来でした。しかも、あんなに早くに発想を形にするなんて過去最速ですよ』
「そうなんですか!?」
『やはり、あなたを引き込んで正解でした』
初めての仕事だから、もっとあれこれダメ出しされると思っていた。こんなに誉められたら、戸惑ってしまう。
「線画の方はあれでいいんでしょうか?」
『はい。編集者達の間でも大好評でしたよ。戸塚さんのおかげで、売れるアニメになります』
海音の口ぶりは熱気に満ちている。それだけ、紙川出版がこの劇場版アニメの製作に心血を注いでいるということが分かった。
『まだ、少しだけ訂正をお願いしたい箇所があるので、細かい指示はこれからパソコンにてメールを送信いたします』
「分かりました。指示を頂いたら、すぐに修正し直しますね」
『ありがとうございます。それと、お電話したのはもうひとつお願いしたい依頼があったからなんです。それについても、同様にメールを送りますね』
「分かりました…!」
返す声に、おのずと気合いが入る。
劇場版アニメのキャラクター原案だけでなく、他の仕事もさせてもらえる!自分の能力を絶え間なく求められるのが、とても嬉しかった。
『それでは、お体に気を付けて作業の方頑張って下さいね』
「ありがとうございます。それでは、また」
海音との業務連絡はあっという間に終わってしまった。
親戚関係について軽く話せたらいいなと思ったけど、さすがに仕事の電話でその話題は出しづらい。また、今度だな。
電話を終えてすぐ、出版社のアドレスからパソコンにメールがあった。海音が送ってくれたんだろう。
電話で言っていた通り、そのメールには新たな仕事の件について書かれていた。
「ふむふむ。……ライトノベルのカラー表紙およびモノクロの挿し絵イラスト!?」
先日、紙川出版で行われたライトノベルのコンクールで、何人かの新人作家さんが入賞を果たした。その作家さん達のうち、ある人の書いた作品の表紙イラストを、私が飾ることになったのである。
締め切りは二ヶ月後。