あと、11分
「え、っと」
「……スイ?」
「何でもないよ、ちょっと考え事してただけ」
もしかして。
いや、違う。そんな、ありえない。
シキと目が合う。シキはすっと目を細めて幸せそうに笑う。その笑顔がすうっと心に沁みる。
「シキ」
俺が呼ぶと、シキは首をかしげてそれから小さく微笑んでどうしたの、と聞いてくる。
優しくて、温かくて、でも泣き虫で、よく照れて、でもどこか───芯の強さを感じる彼女。
「シキと、前に……逢ったことある、っけ」
2度目の質問。
シキは一瞬驚きを隠せないように、目を見開いて───それから、抱きしめたくなるほど、無理やりに笑みを浮かべて、言うのだ。
「ないよ、一度も」
あの時と、同じように答えた。