あと、11分

呼吸が規則正しくなって、瞼がゆっくりと開かれた。



「……あ、れ」




彼女が第一に発した言葉は、それだった。


───え。


ジワリと、嫌な汗が背中に滑り落ちていく。頭を押さえながら、夕雨が抱き留めていた俺の腕の中からゆっくり立ち上がる。


そして、周りをきょろきょろ見渡し始める。


なんだよ、なんだよ……その反応。その、〝記憶をなくしました〟みたいな……でも、いや、まさか、まさか。


夕雨は、それから俺を見て、




「───あれ?何で私、ここにいるの?」




何かがはじけ飛んだような気がした。

夕雨は自分の瞳の周りが涙でぬれているのをぬぐいながら、首をかしげている。



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