あと、11分
「でも、わたしの生きていた時のことを、わたしは……覚えていない、の」
「……おぼ、えて」
「……わたしが、〝死んでしまった〟わたしが瞼を開けたとき、そこは、屋上へ続く階段だった。ひとりで、そこにぽつって、立ってたんだ。
どうして、ここにいるのか、思い出せなかった。
自分が、何歳なのか、どこの家で、家族は誰で、友人が誰で、電話番号も、何も、思い出せなかった。
心が空っぽになったみたいに、空洞になったみたいに、全部、忘れてしまった。
覚えていたのは、───シキという名前だけ」
一人で、たった一人で。
瞼を開けたとき、そこは知らないどこかの学校の屋上。
きっと、シキは必死に自分が誰なのか、家族は、家は、友達は、帰り道は、思い出そうとして───何もないことに、気づいてしまった。