あと、11分


「自分が、死んでしまったって気づいたのには、そう……時間はかからなかった。

 階段を下りて、それからたくさんの生徒が廊下を歩いてて、話していて、楽しそうで。

 一人に、ね。……話しかけたの。すいません、いいですかって。


 
 ……その人は、まるでわたしが〝いない〟みたいに、通り過ぎて行った。



 何かの、冗談なんだって。これは、きっと誰かに仕組まれて、誰かに、何かされて、きっとみんながおかしいんだって、そう思いたくて。

 通り過ぎる人、みんなに話しかけたの。引き留めて、……引き留めようとして、その手はすってすり抜けて……触ることも、できなくて。

 


 わたしは、ここにいるって。


 ……でも、……でもね、誰も気づいては、くれなかった。


 
 ───だって、わたしはここに、〝いない〟んだから……」



< 163 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop