あと、11分
ごめんなさい。
彼女が、何度も口にしたその言葉はどうしようもないほど切なくて。
記憶喪失だなんて、よくドラマにあるようなお涙頂戴な話。
でも、彼女はそれを何度も、何度も繰り返すのだ。
2891分を、繰り返す。
───すっと、時計を見上げる。
あの時、シキに逢った時間まで───あと、11分。
これだけは、伝えなくてはいけない。
俺は泣きじゃくる彼女の肩をもって、額がくっつくほどに近い距離で目を合わせる。
「聞いて、聞いて、シキ」
「……」
濡れる瞳が、俺を見上げる。
───あと、7分。
「きっと、きみを傷つけてしまうことだって分かってる。
何度も何度も、この言葉できみを苦しめたのかも」
「……ス、イ」
───あと、5分。