あと、11分


香澄が俺の襟首を掴み取って、今にも食い殺しそうなほどに睨みつけてくる。それでも、俺は、続けた。


「わたしは、香澄くんを傷つけてばかりだったね」


「シキは、お前を傷つけてばかりだった」


「わたしは、香澄くんが物心つくころから、お姉ちゃんらしいことをひとつもして、あげられなかった」


「お前が物心つくころから、シキは姉らしいことを一つもしてやれなかった」


「いつも、病院にお見舞いに来てくれては学校へ行けないわたしのために一生懸命いろんな面白い話、楽しかった話、小さいあなたに気を使わせるばかりの、駄目なお姉ちゃんだった」


───知らない、話だった。

あの時、シキは何も話さなかったこと。シキは、生きていたころ病院にいたのか。

憂いをもって話す彼女の口調は、ただただ淡々と事実を紡ぎ続ける。



「病院に見舞いに来てくれるあんたを、シキは気を遣わせてばっかでごめんって」


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