あと、11分
「っっ、そ、んなの……!!口からでまかせだっ!!やめろ、やめろよ、やめてくれ、姉さんのこと何も知らないくせに、なんにもわかってないくせに、何で、何で……!!」
ぐらぐら俺の襟首をもって揺らしながら、香澄が叫んだ。
その声は、どこか、自分に似ていると思った。
何も出来なくて、ちっぽけで弱くて、そして、救うことができなかった前の俺のように。
「わたしは、お母さんの誕生日に、香澄くんと相談してプレゼントを買った。
私の代わりに買ってきてくれた、小さな箱を手に持って。きっと喜んでくれるかなって、香澄くんは笑っていたよね」
「シキは、母さんの誕生日にお前と相談して、プレゼントを買った。小さな箱を、お前は病院から出られなかったシキに代わって買ってきてくれた」
「───わたしは、わたしはね。
もう、その時には、お医者さんに長くないだろうって、言われていた」
言葉が、出なかった。
シキは、小さな弟と母親に囲まれてきっとささやかながら幸せだと、勝手に決めつけていた。だって、彼女は病気で死んだのではなく、この学校の屋上へ続く階段で、転落して死んだのだと、聞いていたから。
だから、きっと、彼女の病気が治っているものだと、思っていた。思い込んでいた。