あと、11分


もう自分は、守れないから。

2人を守ることができないから、せめて、香澄は男の子だから、お母さんを守ってあげて。


「香澄くんは、その日から、一度もお見舞いに来てはくれなかった」


「お前はその日を境に、シキに逢いに行かなくなった」


香澄は、その言葉を聞いてするりと、襟首を握りしめていた拳をほどいて数歩、後ろに下がって両手で顔を覆い隠しながら、泣いていた。




シキは、彼の近くまでやってくると、すり抜けてしまうことなんて分かっているのに。

通り抜けてしまうことなんて、分かっているのに。


それでも、彼の頬にそっと手を添えて、蚊の鳴くような小さな声で、言った。






「───ごめんね」


「……ごめん」


「ごめんなさい」


「……ごめんなさい」



< 247 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop