あと、11分
幸せなもんか。
分かってる。自分のエゴだと、分かっている。
でも、それでも、シキが消えてしまうことが、ここからいなくなってしまうことが、怖かった。どうしようもなく、怖かった。
「姉さんは、何か俺以外で覚えていることはない?」
隣からひょこっと顔を出した香澄が、シキにそう問う。
シキはしばらく考えるように唸って、それから首を横に振る。
「じゃあ、質問を返るよ。自分のことを何か知っている人に思い当るところは、ない?」
今度は、反応があった。
シキはつくづく嘘が下手だ。一瞬悲しそうに眉を下げて、それからないよ、と答える。
俺も香澄も、それを強く問い詰めることはできなかった。
必要以上に彼女を傷ついている自分が、もっとシキを傷つけてしまうんじゃないかって。
3人、何もしゃべらないまま廊下を歩く。その雰囲気に、だんだん肩身が狭くなってきて、何か喋ろうと顔を上げた、そのとき。
「───ちょっと、スイ!」