あと、11分
「うげ」
嫌な奴がやってきた。
面倒だけれど、ここで無視したらまた面倒だ。
俺は伏せていた顔だけ上に向ける。厳しい瞳で俺を見下ろすのは、もう数十年も一緒入いる腐れ縁の幼馴染。
「課題、忘れたでしょう」
「何のことですかな」
「とぼけるな。3連で忘れたらさすがにアンタ留年もあり得るわよ」
「それは困るな」
「頭が痛くなるほど困るのが遅いわ」
夕雨は、これ放課後に書いて持って来いって先生が、とプリントを差し出された。受け取ると、なんと古文。うへえ。
文系ならともかく、理数系の俺には苦難すぎる。
やる気すら起きないので、俺はもう一度机に伏せる。
目を閉じると、必ず小さな痛みがする。
それを合図に、俺は時折同じ夢を見る。
誰かが、泣いていた。
ずっと、雨の中、泣いていた。