あと、11分
俺は、震える彼女の肩に───
「───シキ」
名前を、呼んだ。
彼女の肩が、ぴたりと止まった。そして、ゆっくり顔を上げる───信じたくて、でも信じられなくて、状況を読み込めていないようなそんな顔だった。濡れる瞳が動揺している。
「───ぁ、あ」
薄桃色の口元が小刻みに揺れる。
俺は、もう一度唇を噛みしめて───彼女を見据えながら、言う。
「シキ」
何もないはずなのに。
何も、記憶にすらないはずなのに、俺はそれでもその名前を必死に呼ぶ。泣かないで、泣かないで。どこかで自分じゃない自分が何度も彼女に呼びかける。