あと、11分


「───うそ……っ絶対、うそ」




ぽつりと小さくつぶやく声がした。

でも、それは泣きづつける雨の音にかき消されて、聞こえない。



「───うそ、だ。うそ、う、そだ」



彼女は一度大きく息を呑むと、何かに怖がるように立ち上がる。

不安定な足場を一段、また一段と俺から逃げるみたいに後ろに下がっていく。




「待って、シ、」



俺がそういって手を伸ばしたその時───、ぱっと彼女は華奢な体を翻すと、雨に濡れるのもお構いなしで非常階段を駆け上っていく。

何が起きたのか一瞬理解できなくて、俺は立ち尽くしてしまった。


ぱたん、と非常階段に続くドアの閉める音ではっと我に返る。


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