あと、11分
怒ったシキは珍しいので、俺は小さく笑いながら彼女に歩み寄る。
ちょうどさっきの黒板の前で止まって、あ、と思いついた。
白いチョークを手に取って、黒板の端の隙間に、
『白ペンキ切れたらしいから買って来ます、スイ』
と書いた。くくくく、山崎と飯田はきっとびっくりするに違いない。夕雨に伝える前にドヤ顔でペンキ渡してやろ。
「シキ」
俺が名前を呼ぶと、まだちょっと怒っているのか首だけこっちを振り返るシキに、俺は白いチョークを差し出した。
「せっかくだしこれから暇なら、俺と白ペンキ買いに行かない?」
「……え」
怒っていた表情は、その言葉で驚きに変わる。
黒い瞳を見開いて、それから困ったように眉を下げる。何か考えているようだった。