あと、11分


怖かった。

なんでかわからない。


シキは、たまに儚く見えてくる。霞んで、見えてくる。

隣にいるのに、近くにいるのに、すぐそばにいるのに───消えてしまうんじゃないかって、思う。


それが、怖かった。


「あ、の……さ。雨降らなくても、どっかで時間つぶそうか」


シキが、消えてしまいそうで。

違う、違う、違う。

シキはここにいる。俺の隣にいるじゃないかよ。


「ああそうだ、俺は行ったことないんだけどさ、ケーキとか上手いカフェあるって女子から聞いてたからさ、行かない?

 シキ、甘いのとか好き?

 俺はあんまり食べないんだけど、シキが行きたいなら行こっか」


まくしたてる。

不安を塗りつぶすように、息が途切れてしまうんじゃないかってほど、心臓が握りつぶされるんじゃいかってほど、自分が焦っていることに、気づきたくなくて。


「シキ、なあ、シキ」


俺はなんでこんなに弱気なんだろう。


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