あと、11分
嘘じゃない、幻覚なんかじゃない。違う、違う。
あの非常階段で、シキに逢って。俺は、気の利いた言葉が出なくて、シキは泣いていて。全部、あった、あったのに。何で。何で、何で、何でっ。
「……し、き?」
「シキが、ここに!ここに、いて、だから……っ」
「落ち着いて、ねえ、スイ」
夕雨が俺の肩をつかんで、揺らす。
落ち着いてなんて、いられるわけない。
シキが、いないだなんて。
シキが、いなくなってしまっただなんて。
「いるんだよっ……!
シキはっ……、絶対、いる、いなくなったりなんて、」
唇を噛みしめて、俺は出てきそうになる涙を何とか引っ込めようとする。