あと、11分
だって、ここで涙を流してしまったら、本当にシキがいなくなってしまう気がして、シキと逢って話したすべての記憶が嘘だって、否定してしまう気がして。
「───ねえ、スイ。シキって、誰……?」
「……っ」
お願いだから、シキをいなかったことにしないで。
頼むから、シキを、俺から奪わないで。
───『…………後悔、する』
頭の中に、あの儚げな声が響く。
ドア越しに、彼女のこもった声が聞こえてくる。俺はあの時感じた胸の痛みを、また感じてしまう。
違う、違う、後悔なんてしない。
絶対に、後悔なんてしない。
───『きっと、……後悔、する』
シキに逢ったことを、後悔したりしない。絶対に……!
シキに逢えて、シキと話せて、俺は嬉しかった。嬉しかったんだ。
たとえ彼女が、どんな人間だって、どんな怪物だったって、俺はきっとあの時を何度繰り返すことになったとしても。
後悔なんて、しない。