悪魔と私
そらとぶあくま

「ああー。疲れたー。シャワー浴びていい?」



夜10時過ぎ。

定時で帰宅していた私が、食事も入浴も終えて読書をしていると、悪魔が帰ってきた。


バイト帰りだ。

先週から悪魔は、近くのカフェでバイトをしていた。



「貴方、シャワーは必要ないんじゃなかったの?」

「必要はないけど、浴びれない訳じゃねえんだよ。アンタ、いっつも仕事帰りに気持ちよさそうに浴びてるし。俺も浴びてみたい」



悪魔は自浄能力が備わっているらしく、今までシャワーを浴びたいなどと言ってきたことはなかった。

それがいきなり浴びたいだなんて、よっぽど疲れたのだろう。

まあ、今まで昼寝ばかりしていたのだから無理もない。



「いいよ。使い方わかるよね?」

「前に1回使ったことあるから任せろ!」



何が任せろなのか知らないが、悪魔は意気揚々とシャワールームに入っていった。

そして、鼻歌混じりに戻ってくる。



「シャワーってこんなに気持ちいんだな。前、浴びたときは、そうも思わなかったけど」

「良かったわね。でも、前って、いつ浴びたの」

「さあ?40年くらい前だったと思うけど。教官と人間界に来たとき、体験させられた」

「40年前って。……貴方、何歳?」

「今年の冬で68。」



どうやら悪魔と人間では、歳の取り方が違うらしい。

てっきり私と同じ25くらいだと思っていたのに。


倍以上生きているのに、なぜ、こんなに子供っぽいのか。

悪魔は肉体だけでなく精神も発達がゆっくりなのだろうか。



「俺さ、仕事で人間界に長居するのこれがはじめてなんだわ」



悪魔が語りだす。

悪魔は見習いとはいえ、血筋が良いらしく上位の悪魔らしい。


そんな悪魔を呼び出すには強い術式がいる為、よっぽど望みがある人にしか呼び出されない。

だから、基本はすぐに望みを叶えて魂を頂戴して帰っていたそうだ。

人間界に留まったのは最長で2日で、こんなに長居したことはないと悪魔は笑う。



「大幅な記録更新だ」

「悪かったわね。私が望み言わないからでしょ」

「まあな。ホント頑固だよアンタ。おかげで、もう1ヶ月だ」

「……そうやって罪悪感に訴えかけても、私は魂を渡さないわよ」

「へいへい。んなつもりで言ったんじゃねえよ。人間界も悪くないってこと」

「なにそれ」



機嫌良く笑う悪魔に、私は首を傾げたのだった。

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