悪魔と私
3
~~SIDE 松永香織
「ただいまっ!」
「……なんか買ってきたの?」
悪魔がガサガサとレジ袋の音と共に帰ってきた。
仕事終わりの静かなひと時は終わりだな。私は読んでいた本を閉じて、玄関に出向く。
悪魔は大きなレジ袋を2つも提げていた。
そんなに何を買ったんだ。ゴミになるものなら怒るぞ。
私はずいと悪魔に近づき、レジ袋のひとつを取り上げる。
「おかえりくらい言えよな。……あ、そっちはシャンプーとか洗剤な。で、こっちが野菜とか食糧。今日給料日だったから買ってきた」
「なんで?」
シャンプーも洗剤もまだあるし、食糧だって夏の盛りに買った素麺が大量に残っている。
不思議に思って首を傾げる私に、悪魔も首を傾げた。
「なんでって。アンタ喜ぶかなと思って」
「はあ?」
「このシャンプー良いんだぜ?バイトの子に教えてもらったんだ。
あと、アンタ素麺ばっか食ってるから、ちゃんとした飯食べたいかなと思って。俺、つくるよ!バイトで習ったから」
「……私、今のシャンプーで満足してるし。食事もそうめんで十分なんだけど。仕事ある日は社食でちゃんと食べてるし」
「なんだよ。折角買ってやったのに」
拗ねた調子で悪魔が口をとがらす。
残念だが、大の男がそんなことやっても可愛くない。
とりあえず、私を喜ばそうとしてくれたことは理解できたが、折角のバイト代をこんなことに使う精神を私は理解できなかった。
「ねえ、悪魔。最近貴方おかしいわよ。早く望みを言えとか急かさなくなったし」
近頃、悪魔はすっかり人間じみている。
バイトに行って働き、風呂にも毎日入る。
食事はいらないと言っていたのに、朝晩私と一緒に食べるようになっていた。
バイト先から残り物をもらってくることもある。
一体、この1ヶ月ちょっとの間に何があったというのか。
「何か企んでるの?」
「ちげえよ。つか、それを言うなら、アンタだって、俺を追い出そうとしなくなったじゃねえか」
「まあね。無駄だってわかったもの」
「俺もアンタと同じだよ。言っても無駄だって分かったから、アンタが死ぬまで付き合うことにした」
「……なにその嫌がらせ」
「悪魔にとっては八十年なんて、すぐだからな」
人間体験も悪くない。
そう言って、悪魔はレジ袋の中身を棚と冷蔵庫に移したのだった。
「ただいまっ!」
「……なんか買ってきたの?」
悪魔がガサガサとレジ袋の音と共に帰ってきた。
仕事終わりの静かなひと時は終わりだな。私は読んでいた本を閉じて、玄関に出向く。
悪魔は大きなレジ袋を2つも提げていた。
そんなに何を買ったんだ。ゴミになるものなら怒るぞ。
私はずいと悪魔に近づき、レジ袋のひとつを取り上げる。
「おかえりくらい言えよな。……あ、そっちはシャンプーとか洗剤な。で、こっちが野菜とか食糧。今日給料日だったから買ってきた」
「なんで?」
シャンプーも洗剤もまだあるし、食糧だって夏の盛りに買った素麺が大量に残っている。
不思議に思って首を傾げる私に、悪魔も首を傾げた。
「なんでって。アンタ喜ぶかなと思って」
「はあ?」
「このシャンプー良いんだぜ?バイトの子に教えてもらったんだ。
あと、アンタ素麺ばっか食ってるから、ちゃんとした飯食べたいかなと思って。俺、つくるよ!バイトで習ったから」
「……私、今のシャンプーで満足してるし。食事もそうめんで十分なんだけど。仕事ある日は社食でちゃんと食べてるし」
「なんだよ。折角買ってやったのに」
拗ねた調子で悪魔が口をとがらす。
残念だが、大の男がそんなことやっても可愛くない。
とりあえず、私を喜ばそうとしてくれたことは理解できたが、折角のバイト代をこんなことに使う精神を私は理解できなかった。
「ねえ、悪魔。最近貴方おかしいわよ。早く望みを言えとか急かさなくなったし」
近頃、悪魔はすっかり人間じみている。
バイトに行って働き、風呂にも毎日入る。
食事はいらないと言っていたのに、朝晩私と一緒に食べるようになっていた。
バイト先から残り物をもらってくることもある。
一体、この1ヶ月ちょっとの間に何があったというのか。
「何か企んでるの?」
「ちげえよ。つか、それを言うなら、アンタだって、俺を追い出そうとしなくなったじゃねえか」
「まあね。無駄だってわかったもの」
「俺もアンタと同じだよ。言っても無駄だって分かったから、アンタが死ぬまで付き合うことにした」
「……なにその嫌がらせ」
「悪魔にとっては八十年なんて、すぐだからな」
人間体験も悪くない。
そう言って、悪魔はレジ袋の中身を棚と冷蔵庫に移したのだった。