悪魔と私
5
「頂戴」
「え」
「傘よ。持ってきてくれたんでしょ」
私の言葉に、悪魔は一瞬呆けたあと、慌てて傘を差し出した。
私はそれを受け取り、土砂降りの雨の中に入る。
悪魔もそんな私の隣に並んで、駅まで二人で歩いた。
「二人で外出るなんて初めてだな。もうすぐ2ヶ月なのに」
「そう?」
「そうだよ!いっつも俺は留守番だからな」
悪魔は心なしか嬉しそうだ。こんな雨なのに、よくそんなテンションでいられるな、と私は半ば呆れ、半ば感心してしまった。
しかし、よくよく見れば、悪魔は雨に濡れていない。
「貴方。濡れないのね」
「まあ、なんせ悪魔だからな。雨を避けることなんて朝飯前だ」
なら傘はいらないじゃないか。
しっかりと傘を差している悪魔を見て思う。
しかし、差していないのに濡れないのは不自然かと、すぐに思い直した。
「……便利ね」
「あれ?アンタ、雨嫌いなの?」
「嫌いよ。不愉快だもの。濡れると気持ち悪いし、洗濯物が増えるからいいことない」
「ふーん。そういうもんか」
濡れない悪魔は、いまいち雨の不快感を理解できないらしい。
しかし私の苛立ちは伝わったらしく、悪魔はうーんと唸ったあと、ある提案をした。
「早く帰りたいなら、飛んで帰るか?」
「は?」
「俺、雨好きだし、二人で電車で帰るのも楽しいかなと思ったけど、アンタ雨嫌いみたいだからさ。来て」
「ちょっと!」
いきなり腕を捕まれて、細い路地に引き込まれる。
「傘たたむぜ」
「ちょっと!なにすんの!」
傘を奪われたかと思うと、悪魔の右腕に抱き寄せられる。
突然のことに驚いて固まってしまい、我に返って悪魔を突き飛ばそうとしたときには、私の足は地面からすっかり遠退いていた。
悪魔が大きくジャンプしたのだ。8階建てのビルを越え、障害物がなくなったところで、悪魔はバサリと翼を拡げた。
「おいおい、押すなよ。落ちて死ぬぞ」
そう言われた私は、仕方なく、悪魔にしがみついた。
悪魔は満足気に頷く。
「しっかり捕まっとけよ」
悪魔はそう言うと、一気に羽を動かして風に乗ったのだった。
「え」
「傘よ。持ってきてくれたんでしょ」
私の言葉に、悪魔は一瞬呆けたあと、慌てて傘を差し出した。
私はそれを受け取り、土砂降りの雨の中に入る。
悪魔もそんな私の隣に並んで、駅まで二人で歩いた。
「二人で外出るなんて初めてだな。もうすぐ2ヶ月なのに」
「そう?」
「そうだよ!いっつも俺は留守番だからな」
悪魔は心なしか嬉しそうだ。こんな雨なのに、よくそんなテンションでいられるな、と私は半ば呆れ、半ば感心してしまった。
しかし、よくよく見れば、悪魔は雨に濡れていない。
「貴方。濡れないのね」
「まあ、なんせ悪魔だからな。雨を避けることなんて朝飯前だ」
なら傘はいらないじゃないか。
しっかりと傘を差している悪魔を見て思う。
しかし、差していないのに濡れないのは不自然かと、すぐに思い直した。
「……便利ね」
「あれ?アンタ、雨嫌いなの?」
「嫌いよ。不愉快だもの。濡れると気持ち悪いし、洗濯物が増えるからいいことない」
「ふーん。そういうもんか」
濡れない悪魔は、いまいち雨の不快感を理解できないらしい。
しかし私の苛立ちは伝わったらしく、悪魔はうーんと唸ったあと、ある提案をした。
「早く帰りたいなら、飛んで帰るか?」
「は?」
「俺、雨好きだし、二人で電車で帰るのも楽しいかなと思ったけど、アンタ雨嫌いみたいだからさ。来て」
「ちょっと!」
いきなり腕を捕まれて、細い路地に引き込まれる。
「傘たたむぜ」
「ちょっと!なにすんの!」
傘を奪われたかと思うと、悪魔の右腕に抱き寄せられる。
突然のことに驚いて固まってしまい、我に返って悪魔を突き飛ばそうとしたときには、私の足は地面からすっかり遠退いていた。
悪魔が大きくジャンプしたのだ。8階建てのビルを越え、障害物がなくなったところで、悪魔はバサリと翼を拡げた。
「おいおい、押すなよ。落ちて死ぬぞ」
そう言われた私は、仕方なく、悪魔にしがみついた。
悪魔は満足気に頷く。
「しっかり捕まっとけよ」
悪魔はそう言うと、一気に羽を動かして風に乗ったのだった。